原田コラム

2009/02/09

プロの道具箱②

〜ジュエリーコンシェルジュ原田の宝石コラム〜
宝石の価値判定の最前線で働いてきたジュエリーコンシェルジュ原田が
世界のジュエリー業界の動向についてご紹介いたします。

 

2回目は、ピンセットです。
1回目のルーペは最も使用頻度が高く大事な道具ですが、性能そのものにそれ程こだわりがありませんでした。
しかし、ピンセットは別物です。
拘ったものを用途によって使い分けます。

そもそもピンセット(Pincet)はオランダ語で英語ではありません。
英語では、ツイーザー(tweezer)と言います。
初めてバイヤーとして海外出張するときに間違って使う英語の代表格です。
ピンセットと言っても英語では通用しませんので、ご注意を。
因みにルーペ(Lupe)はドイツ語で英語ではループ(Loupe)です。
これは、少し近いですね。
日本に入ってきたときの国の言葉で定着しているので、外来語は英語であるかどうか確認が必要です。

ピンセット3種

ピンセット3種先端

これが、私が主に使っている3本です。
奥から、大粒宝石用ピンセット、真ん中がチタン製ピンセット、手前がメレー用ピンセットです。
全てスイス製です。

大粒用ピンセット先端

大粒宝石用ピンセットの先端です。
金属はステンレスです。
特徴は、掴むところに溝が掘られて宝石を固定し易くなっています。
私の仕事は大粒が多いので、このピンセットを一番多く使います。
大粒用と言っても直系3ミリぐらいまでの宝石全般に使いますので、ほぼ万能です。
但し、本当に高額で大粒になるとペンセットは使いません。
落とすと大変なので、直接手で持ちます。

チタン製ピンセット先端

チタン製のピンセットの先端です。
ステンレスのものに比べると軽いのが特徴です。
チタン製はダイヤモンドに使うときは注意が必要です。
ダイヤモンドの稜線に当たると黒くなることがあります。
一度付くと、これが厄介です。
クロスやアルコールでは取れません。
薬品で煮ないと取れません。
私は、これをルビー、サファイア、エメラルドの3ミリ未満の小粒材料石に使っています。
ダイヤモンドに比べると、カラーストンはガードルの形状にバラツキがあって滑りやすく厄介です。
一般のピンセットの先端は格子状の溝が掘られていますが、このピンセットは磨りガラス状です。
カラーストンには、この形状が向いています。
それでも、気を抜くと弾いてしまいます。
1ミリ~3ミリの宝石を飛ばしてしまうと探すのに時間を取られてしまいますので、出来るだけ気を抜かずに作業に集中します。

メレー用ピンセット先端

メレー用ピンセットの先端です。
ステンレス製です。
これは、私の宝物です。
主に3ミリ未満のダイヤモンドに使っています。
先端が尖っていて1ミリ未満まで掴むことが出来ます。
小粒になればなるほど弾き易くなります。
先端の微妙な凹凸が決め手になります。
この先端は、私がやすりをかけて調整しました。
幾つかのピンセットをやすりで調整しましたが、殆ど満足できませんでした。
これは、奇跡的に上手くいったものです。
もう15年以上使っていますが、代わりがありません。
ピンセットで宝石を掴むコツは、最低の力で掴むことです。
落とす寸前でちょうどです。
力の入れすぎは禁物です。
力を入れすぎると弾きやすいのと、弾いた宝石が何メートルも飛びますので悲劇的です。
新人を訓練する時に「時々真下に落とすぐらいがちょうどいい」と指導します。
端を輪ゴムで巻いているのは、先端部分の開き具合の調整のためです。
ダイヤモンドの大きさに合わせて先端の間隔を開いたり閉じたりします。
大きく開いていると力が入りすぎるため、掴むダイヤモンドより少し余裕がある程度に開いていると余分な力を入れずに掴めます。

買い付けに行くと1日10時間もピンセットを使うことがあります。
作業能率に大きく影響するので、宝石バイヤーにとってピンセットはもっとも大切な道具です。
但し、最近では先端が尖っている金属は飛行機の手荷物に入れることが出来ません。荷物が少ない時でも毎回チェックインしなくてはならない点に閉口しています。