原田コラム

2022/07/29

ジュエリーアドバイザーの仕事帖⑱

 

「インフレと宝石」

2022427日、のSotheby’s Hong Kongのオークションで15.10ct Fancy Vivid Blue Internally Flawlessのエメラルドカットダイヤモンドが57.5百万ドルで落札されました。1カラット当たり約3.8百万ドルという高値です。 価格が比較出来る20年前の相場の10倍以上になっています。

今年になってコロナ禍やロシアによるウクライナ侵攻による経常収支の悪化と日米の金利差から円安が進んでいます。輸入物価が急速に上がって、ついに日本もインフレ局面に変わってきました。従来、インフレに強い資産と言われるのは金や土地の現物資産と株式などの有価証券、米ドルなどの外貨ですが、それに加え最近、宝石を資産として買いたいと言うご要望が増えています。果たしてこれらの選択肢に比べて宝石はどのような位置づけになるのか考えてみたいと思います。

まず、宝石の価格は米ドルがベースです。私の場合、日頃からドルの相場を記憶しておき、宝石を評価す際にそのときの為替レートで円換算しています。宝石を持つと言う事はドルの資産を持つと同様な意味があると言えるでしょう。

次に、宝石は動産なので持ち運ぶことが出来ます。金も動産ですが金額が大きくなると持ち運びには不向きです。文頭のブルーダイヤモンドの金額を最近の金価格で計算すると約950キログラムになり、一般的な軽自動車より重いと言うことになります。それに比べ、15カラットのブルーダイヤモンドはグラム換算でたった3グラムです。一円玉三枚と同じくらいですので携帯性は非常に高いのが分かります。

またダイヤモンドの名前の由来はギリシャ語の“アダマス adamas(征服されざるもの)であることこら分かるようにどんな物よりも硬く、どんな酸やアルカリ溶液にも冒されなく、耐久性はトップクラスです。但し、炭素の結晶なので火事のような高温には弱いため心配な方は耐火金庫やしっかりとした貸金庫に保管されることをお勧めします。

元々宝石は身につけて美しさを楽しむのが基本ですが、様々な宝石の中で長期に保有すると資産として向くものと向かないものがあります。では、どのようなものが資産性が高いのでしょうか。

第一に、長く取引がされて歴史に裏付けられた伝統があるもの。その中で耐久性にかかわる硬度が高い物注1が上げられます。代表的なものはダイヤモンド、ルビー、サファイア、エメラルドになります。さらに稀少性に影響するある程度の大きさ以上で特別な産地から産出されたもの、そして処理が殆ど施されていないことも条件です。カラーレスのダイヤモンドはカラー、クラリティも大事ですが予算の中で出来るだけ大粒のもの、出来れば3カラット以上がお勧めです。同じ予算ならラウンドよりサイズアップできるファンシーシェイプも良いでしょう。ブルーやピンクのファンシーカラーダイヤモンドは小さくてもとても高価なので1カラット以上を目指したいところです。ルビーはビルマ(ミャンマー)モゴック鉱山産で3カラットサイズ以上の無処理注2、サファイアでしたらカシミール産かビルマ産で5カラットサイズ以上の無処理、エメラルドでしたらコロンビア産ではやり5カラットサイズ以上の無処理か軽度な処理注3をお勧めしたいところです。

宝石に添付されるレポートも世界に通用しなくてはなりません。クリスティーズやサザビーズ等の国際オークションのカタログに掲載されているものが基準となります。ダイヤモンドグレーディングレポートは4Cを発明した米国のGIAが独占しており、カラーストンの鑑別書はスイスのSSEFGUBELIN、米国のAGLGIAがよく使われています。もちろん英文表記です。

また資産性を考えた場合はどのレベルの価格で購入するかが将来の価値に影響します。流通マージンがそぎ落とされて価値が担保されているオークション等の仲介業者から購入するのも大切です。但し品質を見極める目が必要なので上級者向けでもあります。

宝石は株や貴金属の価格のように短期的なアップダウンはありませんので長く楽しんで後に確かな価値が残る資産として考えことが大切です。

 

参考:20141222日に「インフレと宝石」と言う同じタイトルでブログを書きました。http://harada.ho-seki.com/archives/52215668.html

 

1:ここでは「硬度の高い物」とはエメラルドのモース硬度7½以上と定義します。

2:ルビー、サファイアの「無処理」とはNo Indication of Heating(加熱の痕跡を認めず)

3:エメラルドの「無処理」とはNo Indication of Clarity Enhancement(透明度の改善を認めず)

「軽度な処理」とは透明度の改善の為の含浸処理の程度をMinor又はF1(より少ない)、Moderate又はF2(中くらいの)、Significant又はF3(著しい)の3段階にクラス分けしたMinor又はF1以上のもの