原田コラム

2021/09/24

ジュエリーアドバイザーの仕事帖⑭

トライアル・アンド・エラー

「全くダメ!」と思わず声に出そうになりましたが、作ってくれた職人を前にし、言葉を飲み込みました。私の細かなディレクションに沿って職人は忠実に仕上げてくれたのでイメージ通りになっていない結果責任は自分にあります。その場は職人に感謝の意を伝えて作品を受け取りました。
ファンシーシェイプダイヤモンドの美しさの大きなポイントは綺麗な輪郭です。美しく輝くのは当然ですが、せっかくのバランスの取れた輪郭が分からなければ意味がありません。受け取ったリングではメインストンである2カラットサイズのペアーシェイプの輪郭が周りの輝きに同化して分からなくなっていました。輝きを連鎖させてより大きな輝きを作り出すと言う意図でしたら成功ですが、この場合はファンシーシェイプの魅力が発揮されていません。

 

悔しさから別のデザインで再挑戦しました。2カラットサイズのオーバルシェイプのダイヤモンドをマーキスシェイプのダイヤモンドで取り巻いたデザインです。マーキスシェイプの一つ一つがはっきりと分かるように適度な間隔で配置し、メインストンも間が抜けない程度の隙間を作って留めました。
しかし、結果は「またダメ!」。前回より少しは良くなりましたがメインストンが生きていません。

そして懲りずに三度目の挑戦。1.5カラットサイズのハートシェイプのダイヤモンドの周りにペアーシェイプのダイヤモンドをあしらいました。
・・・「今度もダメ!」でした。ハートシェイプは元々ラウンドに近いため取り巻きの中で輪郭をはっきり出すのは難しいのですが、周りを比較的大きなペアーシェイプにしたため強弱も付かず埋もれてしまいました。

三敗を喫した後は心機一転、小粒のメレーダイヤモンドでペアーシェイプのダイヤモンドを取り巻いたリングを仕立てました。メレーダイヤモンドは小粒でも良く輝くシングルカットを採用し、メインストンと絶妙な隙間を作って石留してあります。今回はバランスの取れたペアーシェイプの美しい輪郭がはっきり分かり、小粒のメレーダイヤモンドが品の良い豪華さを与えてくれています。

ファンシーシェイプの輪郭を際立たせる一般的な方法は異なる輝きのダイヤモンドを組み合わせることです。下の写真ではクッションシェイプのブリリアントカットにバケットシェイプのステップカットを組み合わせることでダイヤモンドだけのジュエリーにもメリハリが出ています。

ブリリアントカットのファンシーシェイプダイヤモンドを比較的大きなブリリアントカットで取り巻くことに挑戦してきましたが、仕上がりに納得出来なかった3つのリングが手元に残りました。その内、一つ目のペアーシェイプダイヤモンドリングは改良の余地がないので解体しました。あとの2つのリングはそれぞれオーバルシェイプダイヤモンドをルビーに、ハートシェイプダイヤモンドをエメラルドに、カラーストンをメインにして留め変えたところ、魅力あるリングとして見事に蘇りました。そして外したハートシェイプダイヤモンドはソリテールタイプにディレクションし直し、元々の際だった綺麗な輪郭を浮かび上がらせました。

宝石の美しさを引き出すためには輝きの大きさや種類を組み合わせることが大切です。これまでジュエリーをたくさんプロデュースしてきましたが、中にはここで取り上げたような失敗例もあります。納得のいかなければコストがかかっても妥協せずに作り直す勇気を持つように努めています。私の失敗がこれからジュエリーをプロデュースする方の参考になれば幸いです。