原田コラム

2012/05/31

Christie’s Hong Kong Auction Result 1

〜ジュエリーコンシェルジュ原田の宝石コラム〜
宝石の価値判定の最前線で働いてきたジュエリーコンシェルジュ原田が世界のジュエリー業界の動向についてご紹介いたします。

 

一昨日香港でChristie’sのジュエリーオークションが行われました。
踊り場に立つ中国の景気が懸念される中で結果は稀少宝石の人気が継続していることを印象付けました。
36年ぶりに市場に現れたHarry WinstonのMartian Pinkや最高価格(単価)が見込まれた6カラットのルビー等話題の宝石が期待通りの高値で落札されました。
ここ数年の香港オークションの傾向ですが、高額落札者の殆どがアジアの個人です。
落札総額(手数料込み):HK$623,124,750 US$80,252,468(約64億円)
落札率:79%(ロット数)、82%(価格)

○Fancy Intense Pink Diamond Ring by Harry Winston
3766 12.04ct Fancy Intense Pink VS1 by HW

Shape: Round-shaped
Cut: Brilliant-cut
Weight: 12.04cts
Color: Fancy Intense Pink
Clarity: VS1
Type:TypeⅡa
見積価格:US$8,000,000-12,000,000
落札価格(手数料込み):HK$135,060,000
約US$17,395,728(約15億5,000万円)
1カラット当り価格:US$1,444,000(約1億1,500万円)

1976年アメリカ合衆国の火星探査機が火星への着陸に人類史上初めて成功。
同じ年にHarry Winstonはこの稀少なピンクダイヤモンドを入手し、息子のRonald WinstonがMartian Pink(火星のピンク)と命名。
そのダイヤモンドが36年ぶりにオークションに登場し、期待通りの高値で落札されました。
ラウンドにカットされた大粒のピンクダイヤモンドは世の中に2つしかないと言われています。
1つは1947年にタンザニアのWilliamson鉱山で発見されたWilliamson Pinkです。
このダイヤモンドは原石(54.5cts)のまま現在のエリザベス女王の結婚祝いに供されて、後に23.6ctsのラウンドブリリアントに研磨されCartierによってブローチに仕立てられました。
ブローチは2009年に米国のオバマ大統領が女王を訪問した際にも身につけられていたと報道されています。
もう1つが今回のMartian Pinkです。
ラウンドブリリアントカットは光を最も効率よく反射することで知られています。
そのメリットがファンシーカラーには災いします。
強い輝きが色を飛ばしてしまうからです。
ダイヤモンドのファンシーカラーにはルビーやサファイアのような濃いものは殆ど存在しません。
そのため貴重な色をより濃く見せるカットが採用されます。
一番向いているのがカラーストンのカットのような膨らんだパビリオンを持つプリンセスカットです。
しかし色が溜まり易い反面ファセットが細かすぎるのですっきりした印象にならないところが好みの分かれるところです。
大粒のファンシーカラーにラウンドブリリアントカットが少ないのは上記のような理由からです。

ピンクダイヤモンドのオークションにおける1カラット当りの価格のランキング
Highest Auction Price Per Carat for a Pink Diamond

追加情報:後日、落札者はHarry Winstonであったことをオーストラリアのジュエリー雑誌Jewellerが報じています。

○Fancy Intense Pink Diamond Ring
3765 3.11cts Fnacy Intense Pink VVS1

Shape: Rectangular-shaped
Cut: Step-cut
Weight: 3.11cts
Color: Fancy Intense Pink
Clarity: VVS1
見積価格:US$1,750,000-2,250,000
落札価格(手数料込み):HK$15,780,000 約US$2,032,464(約1億6,200万円)
1カラット当り価格:約US$653,500(5,200万円)
やや縦長のエメラルドカットのピンクダイヤモンドの両脇にハーフムーンシェイプのカラーレスのダイヤモンドをセットしたリングです。
メインストンとしはやや小さめなピンクダイヤモンドを大粒の脇石をセットすることでボリュームアップしています。
ファンシーカラーダイヤモンドの高騰がこのサイズまで及ぶと装身具としての価値と言うよりコレクターズアイテムになっています。

○Fancy Brown-Yellow Diamond Ring
3762 40.02cts Fancy Brown-Yellow VS1 TypeⅡa.

Shape: Pear-shaped
Cut: Brilliant-cut
Weight: 40.94cts
Color: Fancy Brown-Yellow
Clarity: VS1
Type:TypeⅡa
見積価格:US$1,000,000-1,500,000
落札価格(手数料込み):HK$11,860,000 US$1,527,568(約1億2,200万円)
1カラット当り価格:US$37,300(約300万円)
GIAのカラーグレードからすると黄色と茶色の中間色でやや黄色よりですが、この手の色はオークションでもあまり人気がありません。
落札価格も下限ぎりぎりなので、主催者側も胸を撫で下ろしたことでしょう。
1カラット当たりの価格はたいしたことがなくとも40カラットの大粒になると1億円を越すのでサイズの力は偉大です。
このタイプ(TypeⅡa)のブラウンはHPHT(高温高圧)処理で色が薄くなることが知られています。(鑑別可能)

続く。