原田コラム

2012/03/05

ローマは一日にして成らず

 

〜ジュエリーコンシェルジュ原田の宝石コラム〜
宝石の価値判定の最前線で働いてきたジュエリーコンシェルジュ原田が世界のジュエリー業界の動向についてご紹介いたします。

Kashmir sapphire diamond ring

ヨーロッパのブランドのジュエリーは、日本の職人さんから耐久性がない、仕上げが粗い、鋳造が悪い、石留めが甘いと良く言われる。
確かに日本の鋳造技術や仕上げの丁寧さに比べると粗さは目立つ。
しかし、どちらに魅力があるかと問われれば私はヨーロッパの方に軍配を上げる。
ヨーロッパのジュエリーはどうしたら美しく魅力的に仕上がるかに重きを置いている。

パヴェセッティングなども輝きを最大限に引き出すために地金を薄くしたり、輝きを連鎖させるために石と石の隙間を出来るだけなくしている。
耐久性や爪の形状よりも美しさを優先している。
また、一回の鋳造でも出来るのにより立体感やメリハリを出すために幾つものパーツに分けて組み立てている。
コストよりも出来上がりを重視している。

翻って、大半の日本のジュエリーは鋳造の出来や仕上げにこだわり、石留めも耐久性ばかりを重視しているように思われる。
売り場に一日並べれば付いてしまうような僅かな擦り傷も工場出荷時には許されない。
地金に関しては工業製品と同じレベルで検品している。
本来ジュエリーは工芸品である。
良いジュエリーを作るポイントは、品質の良い宝石を選ぶこととその美しさを引き出すことに尽きる。
品質の良くない宝石に幾ら丁寧な仕上げや丈夫な石留めをしても良いジュエリーにはならない。

日本の職人さんのレベルは国際的にも高い。
問題はプロデューサーのディレクション能力。
それが日本のジュエリーの弱点だ。
「ジュエリーを幾らで作る」
から
「美しいジュエリーを作る」に変えなくてはならない。
但し、いくら費用をかけて美しいジュエリーを作ってもブランド力がなければ買ってもらえない。
そしてそのブランド力をつけるには時間がかかる。
我慢強く作り続けて信頼を勝ち取るしかない。
「ローマは一日にして成らず」である。