原田コラム

2021/03/08

あなたの知らないオークションの世界⑧

「悔しい、嬉しい!」

4万円、42千円、44千円」オークショナーが2千円単位でせり上げる。3-4人が一緒に競っている。私もパドルを上げて応戦する。5万円を超えるとプロの人たちが降りた。残ったのは一般のご婦人一人。「6万円・・・7万円・・・8万円」えっまだ上がるの。その日は落札する気満々で参加していたが、予期しない上がり方に焦りを覚える。好みの宝石にプロらしくなく熱くなって追随。更に上がって「9万円、98千円」ご婦人に降りる気配はない。もう駄目。さすがにこれ以上はプロとしては出せない。結局私が諦めてご婦人が10万円で落札した。参加する前は5万円も出せば落札出来ると踏んでいたので思わぬ伏兵の出現に大誤算だ。

実はこのロットは私が依頼者から預かって出品していたものだ。プラチナ台に1.5ctほどのオーバルカボションのウオーターオパールをダイヤモンドで取り巻いた典型的な昭和のデザイン。お預かりしたときにそのオパールの美しさに一目惚れしてしまった。ウオーターオパールとしては滅多に見ない透明度とブルー、グリーン、オレンジの鮮やかな遊色に目が釘付けになった。私がメインに購入するのはダイヤモンド、ルビー、サファイア、エメラルドの大粒だが、その他のカラーストンでも飛び抜けた品質のものは価格が高い安いに関わらず欲しくなる。

元々は宝石バイヤーなので、プロ相手となると1ドルでも安く手に入れるために粘り強く交渉するが、一般の方が相手の場合は買い叩くことはしないと決めている。自分がお預かりした商品の中に欲しいものがあってもオークションに出品して他の買い手と一緒に競る事にしている。そこはオークション、買えることもあれば前述のように買えないこともある。プロ同士ならば、このくらいなら買えるだろうと高を括っていたところ、相場を気にしない一般の方の出現に想定を覆された。満足気に席を立たれたところをみるとご婦人はこのロットだけを競りに来たらしい。相手が悪かった。一般の方でも見る目がある方はいるものだと感心して自分を慰めた。

もっとも、売却の依頼者にとっては願ってもない結果となった。もし依頼者が巷の買い取り店で売却していたら、ほぼ地金価格プラスアルファで3万円未満となっていたところだが今日のオークションでは手数料を引いても8万円以上を手にしたことになる。約3倍だ。これぞオークションの醍醐味であり、図らずも私もその一役をかった結果となった。

今回は10万円程度だが、これが数百万円でも数千万円でも想定以上の落札結果となった実例は多数ある。依頼主が少しでも真っ当な価格を手にし、喜んでくれることがアドバイザーとしての本懐だ。